ブログ…弊社秘書・スタッフの随想・メッセージ・独り言・・・。
桜の季節が来たと思えば、もう葉桜が目立つようになりました。
近所の公園からは夜桜用の赤ちょうちんが引き上げられ、帰り道はまたいつもの閑散とした景色に戻りました。コンクリートには無数の花びらが敷き詰められ、ピンクの絨毯が広がっています。今年の春は、無情な嵐が早くに奪っていきました。
「好きな言葉は?」 と訊かれたとき、
「さよならだけが人生だ」 です、と答えます。
ご存じのとおり、これは于武陵氏の唐詩『勧酒』を井伏鱒二氏が訳した有名な一節です。
“ ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ ”
『厄除け詩集(講談社文芸文庫)・井伏鱒二氏著より』
太宰治氏もこよなく愛し、また、寺山修司氏がこの詩に応答の詩を作り、それが歌にまでなっています。引用本を通読しても感じることは、翻訳を超越してしまっていること。現に、他の唐詩の訳に出てくる地名が、江戸、阿佐谷、御嶽山、そして吉原…なのですから。 最高級食材の素材の味を活かしつつ独自のソースで引き立てる ― どころではないのです。原形をとどめないまでに調理して、容姿も味すらもガラッと変えてしまう。しかしそのほうが活き活きとして美味。しかも、これが、「まかない料理」なのです。その中でも最高峰とも言えるこの詩は、原詩のテーマすらデフォルメして自由奔放に、しかしながら達観が射抜いた一つの真理を、みごとに喝破しました。それが、桜花舞う出会いと別れの今の季節感と重複することで、多くの人の心をを魅了して止まないようです。
いま、川面に花筏集い、今年の花嵐は去りました。
そして、また巡り来る春には、きっと新しい私との出会いがあることでしょう。
それが、うららかな花吹雪の中であることを、せめて祈りつつ…。